人体で最も大きく重量の重い骨は太腿の中心にある大腿骨です。大腿骨の上端は大腿骨頭と呼ばれる部分で、おおよそ125度の角度で内上側に向いていて、骨盤を作っている寛骨(かんこつ)の寛骨臼(かんこつきゅう)というくぼみに深くはまり込んでいます。
この寛骨と大腿骨の間にできている関節が股関節です。股関節の運動には前方に挙げるのが2筋、後方に挙げるのが4筋、外に開くのが1筋、内側に閉じるのが5筋、外に回すのが7筋、内側に回すのが2筋と大変多くの筋肉が関わっています。関節の中心部には大腿骨頭靭帯があり、寛骨としっかり結びついています。
また股関節は、重い大腿骨を単純に動かすというだけでなく、骨盤より上の上半身の重みを支える他、座り込む、中腰になるなどの姿勢、歩く、走る、飛び跳ねるなどの動きでは、体重の5倍から10倍にも上る負荷がかかり、それにも耐えうる仕組みになっています。
この股関節に痛みや動きに関わる不具合が生じると、上に挙げた姿勢や運動がスムーズに出来なくなります。原因のうち、臼蓋(きゅうがい)形成不全と先天性股関節脱臼と呼ばれる生まれつきの構造上の障害があれば、このことにより成人になって痛みや運動障害が増してきます。年を重ねることで繰り返し積み重ねられた過重によって関節内の軟骨がすり減り、骨同士が直接ぶつかるようになると痛みが増し悪化するので変形性股関節症と呼ばれます。このような際には人工関節置換術が行われ、精度も高まっているようです。
三療(鍼・あん摩・指圧・マッサージ・灸)の治療では、股関節に関わる多くの筋肉や周辺組織の痛みの軽減、動きの改善に対して効果を発揮できます。たとえ股関節の骨や軟骨に障害があって痛みを発していても、その痛みは筋肉や周辺の組織に必ず波及してくるため、痛む部位を的確にとらえて治療すると大きな効果が得られます。もちろん、スポーツや歩き過ぎた後の痛みにはいうまでもなくよく適応します。
ただ股関節は大きいため、痛みの場所が深い部分にあることも多く、治療にはそれなりの技術を要します。
最も負荷がかかって痛みを感じるのが、歩き始めに足を前に挙げる踏み出しの一歩です。股関節の奥深くにある腸腰筋や大腿直筋、左右の前に突き出した骨盤の骨のでっぱりの部分から始まる二つの筋、内股に大きく張っている長内転筋などが痛みを発します。
これらの筋肉と周辺の組織に触れてその筋肉を動かしてみると、痛みの場所が特定できます。この部分に鍼を施し、マッサージと関節運動法を丁寧に行うことで歩き出しがスムーズになり、その後の歩行速度が上がり、階段の昇降も楽になります。その効果を実感している方は多くいらっしゃいます。 <第44号>