"正座(せいざ)"という語はここのところ死語になりつつあるように感じます。
しばらく前まで多くの場所に畳敷きの場があり、そこでは正座をすることが当然の礼儀だったように思います。現在、正座は膝が痛くなる、足が痺れるなどの理由から、足を崩して座ることが容認され、座椅子や椅子に座る形が多くなってきました。
正座とは、向う脛(すね)と足の背を床面に付け、膝の関節は完全に折ってお尻を踵(かかと)と足の裏に乗せて座ることです。股関節は90度の角度に曲げた位置で上半身を起こせば真っ直ぐに背筋を伸ばして座ることができます。こうすると、太腿の後ろとふくらはぎの部分に上半身の全体重が乗った状態になります。
また1980年代初め頃まで「うさぎ跳び」なるものが足腰のトレーニングの一環で行われていました(現在は禁止)。これら正座やうさぎ跳びは膝関節を完全に折り曲げた上でさらにそこに負荷をかけているのです。この状態で痛みや違和感がどこにもないというのが正常に備わっている機能であり、日常生活の中で活用される働きなのです。
これは憶測でしかありませんが、畳での正座生活の時代と比べ現代の椅子生活のほうが、膝関節の痛みや故障に苦しむ人が多くなっているのではないでしょうか。合わせて正座をすることは膝に対して良くないという認識が広まったことも原因の一つかもしれません。
膝をしっかり折りたたんで座るという本来の膝関節の機能を発揮させない生活が長く続くと、関節の老化が進んだり、度重なる外傷などによっていつの間にか正座は出来なくなります。さらに曲がる角度は狭まり、正座ができるには程遠い状況となり、やがて日常の歩行生活に支障が出る深刻な事態になっていきます。
現在すでに完全に正座が出来ないという人には該当しない話になることはご容赦いただくとして、出来るけれども痛みがあるので止めている人、日頃はする機会がないけれどもちゃんと出来る人、日常的にしている人は、皆さんぜひ積極的に取り入れてほしいと思うのです。
ただし重要なことは、関節を作る三つの骨とその付属組織に問題があるのか、あるいは膝関節とその周辺に関係する11種13本の筋肉や腱に問題があるのかを見識のある三療(鍼・あん摩・指圧・マッサージ・灸)師によって見分けをつけてもらう必要があります。
これを見誤ってしまうと痛みが悪化し、良くない結果を招きます。
当院では三療治療と生活アドバイスによって一人でも多くの方が正座が出来るよう取り組んでいます。
<第14号>